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29.たまご

夕焼け色の横顔     

今日は驚いちゃった。突然来るんだもん。 どーせ二人に様子見て来いって言われたんでしょ。 うちの親も相変わらずなんだから… やってるよ、ちゃんと。最近はやっと何とか形になってきたって感じかな。 親方は…何も言わないけど。無口な人なの。 でも自分の信念ってのをしっかり持ってる、本物の職人って感じ。 私も…本当にあんな風になれるのか不安になっちゃうくらい。 …ここね、最近お気に入りの場所なんだ。 夕焼けに消えていく電車が何となく切なくて、 この橋の上から ただボーっと見てる。 いつもね 「私も早く一人前になろう、いつまでも職人のたまごだなんて甘えてないで しっかりやろう」って思うのに、 …あの電車に乗れば簡単に逃げ出せるんだって思う弱い自分もいて… それに気づくたびどうしようもなく悔しくて…。 夕焼けが綺麗なせいにして 時々泣くの。 …たぶん私、今もがいてるんだと思う。 もっともっと巧くなりたい、もっともっと誰かを感動させられるような作り手になりたい ……でも、今の私には決定的に何かが欠けてて…どうしたらいいか…。 ごめん、心配かけるような事言っちゃって。 でもずっと誰かに聞いてもらいたかったんだ。ごめんね。 本気で好きだからこんなに苦しいんだよね。 もがいてもがいて、たとえ答えにたどり着かなくても きっと、前には進んでるよね。そう信じていいよね。 ありがと、色々聞いてくれて。 本当はちょっと折れかけてたんだ。でもこれでもう少し、頑張れそう。 気をつけて帰ってね。 この橋の上から手振って、ずっと見てるから。 うん、ちゃんと一人前になったら、私もあの電車で家に帰るね…

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