タイムカプセル
「ねぇ、覚えてる?卒業文集、自分がなんて書いたのか」 "スポーツ選手、スチュワーデス、医者、漫画家、有名人…" 色々に想像して書いた『夢文集』と 未来の自分に宛てた手紙。 クラス分のを詰め込んで、思い出の品も一緒に蓋をして埋めた あの日のタイムカプセル。 今年がちょうど、約束の10年目だ。 "10年後にはドラえもんを開発し、 タイムマシーンに乗って宝くじ3億円を当てる!" なんて、今じゃ笑っちゃうような夢も平気で語れた。 だから面白くて。 だから…少しだけほろ苦い。 「私は覚えてるなぁ。10年なんて案外あっという間で… "夢"みたいに強く心に抱いてたものはそう簡単に忘れられないよ」 例えば、手で望遠鏡を作ってみる。 その頃私たちが見上げた空にはひとつの雲だってなくて 筒の中にとらえた星を、いつかこの手で捕まえられると信じて疑わなかった。 タイムカプセルの中身。 それはいわば、その星までの地図なのだ。 壮大な宇宙船未来号の航路計画書だ。 星を捕まえた人。 近いうちに捕まえるだろう人。 迷わず舵を取り努力という燃料をいっぱいに積み込んだから届いたのだ。 私はそういう人たちの事を素直にすごいなーと思う。 明るく燃える恒星から目をそらさないでいられたのは 正直少し羨ましい。 考えるに私は… 大人になるってのはコーヒーを美味しく飲めるようになる事だと思う。 あの苦味は時折心を覆うほろ苦さに似ている。 子どもが飲んだらそれはただ苦いだけの飲み物。 だけど大人は…その中に深みを感じ、香りを楽しむ。 苦味を美味しさに変える。 「あ、一番星」 気がつくと夕焼け空に混ざって星が輝き出していた。 夏の香りを微かに残した風が髪を揺らす。 どこか大人になりきれない私は コーヒーの苦味を砂糖やミルクで誤魔化しながら あの日夢見た星を横目に 壮大な宇宙飛行の最中である。