夢色グライダー(回想編)
まだ夢だけを真っ直ぐに追いかけていられた頃 俺たちはグライダーに憧れた。 小六の夏、仲間みんなで組み立てたのはガラクタ飛行機。 いざ空へあげようとそれに乗り込んだのが俺だった。 転がるように丘を下って、何度も地面を蹴って… 「飛べ、飛べ…!」って、思わず叫んだね。 でも駄目だった。 所詮子どもが作ったまがい物だ。仕方がない。 そうと分かっちゃいたんだけど…当時はすごく悔しくてね。 仲間に隠れて涙なんか流したもんだ。 暑い夏だった。 他のどんな夏よりも、空が青い夏だった。 2年前、しまいこんであったグライダーをお前が見つけて 譲って欲しいと言い出したとき、あの日の… まだ汚れてない物語の続きが始まるような気がしたんだ。 いつか壁にぶちあたるだろう事も どこよりも自由に見える空で身動きがとれない感覚に陥るだろう事も なんとなく分かってて譲ったんだから、俺は酷い大人だな。 よくあること。 やめたいならやめればいい。 そう痛みはないさ。苦みは…少しあるけどな。 それでも、もし俺とは違う未来を進んでいこうというならば… 俺はその先の話を知らない。 また会う時にでも教えてほしい。 ちゃんと笑って聞ける程、自分が大人かは分からないけどね。 はは、こんなんで答えが出るようなもんじゃないな。 お前の道だ、お前が好きに決めればいい。 俺の長話は、これで終いだ。