top of page

9.荒海にさす光

早朝4時。
街はまだ闇に包まれ眠っている時間。
顔を突き刺す寒さが冬の訪れを知らせる。


昨日までの強風が嘘のようにやみ、波も穏やかだったが
沖に出ているのはどうやら本船のみのようだ。

しばし順調に漁が行われていった。
しかし、5時をまわる頃から風が強まりだす。

そしてまもなく、海は豹変した。

「…くっそ。すごいなんてもんじゃねーぞ、こりゃ…」
風が海をえぐり波がまるで噴水かのようにしぶきをあげて、船内に飛び込んでくる。
目はまともに開かないし、息をするのさえやっと。
海に放り出せれないよう皆必死だった。

俺は急いで舵を握った。
時折横倒しになりそうな船の上、足を踏ん張りつつ自動操縦から手動へと切り替える。
エンジンの馬力をあげて風上へと船を向けたてるため、方向転換。舵をきる。


と、その時…
目に止まったのは夜の闇を突き抜ける一本の光…。灯台。

…あぁそうだ。あの光のもとで、俺たちの帰りを待ってる人がいる。
無事を、祈ってくれてる人がいる。

だから、絶対死ねない。

諦めるな。舵をしっかりとれ。俺たちは決して一人じゃない。
仲間を、そして自分を信じるんだ…


そう自らに言い聞かせ、強くエンジンをふかした。


午前6時30分。港に無事到着。
俺たちを散々苦しめた荒波のむこうから太陽が顔を出す。
夜が明けて、灯台の光が消えても
俺の瞼の裏側には、あの光景が焼きついていつまでも離れなかった。

09.ひかり

 

Please reload

Please reload

Color

Archive

Category

Please reload

Please reload

bottom of page