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10.思い出が奏でるピアノ

ねぇ、お母さん?久しぶり。…すごく、久しぶりだね。

この部屋はあの時のまま。
薄桃色の絨毯と、たくさんのぬいぐるみ
そして、誕生日に買ってもらった小さなピアノ。

 

まるで、時間が止まってたみたい…
あはは、でもフタの上にはうっすら埃が積もってた。
…あの日から、もう6年も経つもんね。

懐かしいなぁ
お母さん、よく私にピアノ教えてくれたよね。
でも私ったらだだっこで、すぐ「弾けない」って言い出してお母さんを困らせた。
その度にお母さんは仕方ないなって私に弾いてくれた曲があったよね。
曲名も作者も知らないけど、あったかくて 優しい曲。

ピアノの上でお母さんの指先が流れるように踊って、
私と同じだけの指なのに こんなにもたくさんの音を奏でられるんだって
子どもながらに感動したのを覚えてる。

お母さんのピアノ、大好きだったんだよ。
ねぇ、お母さん…聞こえる?


<ド レ ミ・・・>

『違う違う、そこはそうじゃなくてね…』
『えー、分かんない。難しいよぉ』
『まったくこの子は。仕方ないわねぇ』

…これは、あの時の私?

『ねぇお母さん!ピアノ弾いて!お母さんのピアノ、あたし大好き』
『そう?じゃあ、いつもの曲でいい…?』

久々に聞くお母さんの音色…

『あーあ、あたしもお母さんみたいに弾けたらなぁ。ねぇ、どうしたらそんな風に弾けるの?』
『あら、私だって最初から弾けたわけじゃないのよ?
でも、そうね。ひょっとしたらあなたと一緒にピアノするのが
楽しいって気持ちで弾いてるから、そう聞こえるのかもね……』


お母さん…
お母さんの音はちゃんと私の中に生きてたんだね。
今も昔も変わらずに、私の心を震わせる…
涙が出そうになるくらい。


…私、週末家を出るの。
お母さんがいない部屋でピアノ弾くのが怖くてずっと避けてたけど…
今日勇気を出してよかった。

また帰るね。その時はまた、私にピアノ聞かせて…
ね?お母さん…

10.指先

 

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