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16.砂に埋まる街

あ、すみません。起こしちゃいました?
もうすぐ夜が明けるから、朝を知らせる鐘の時間なんです。



…昔は、ここも綺麗な街でした。
煉瓦造りの建物を基調とした古い街で、決して裕福とはいえないけど
皆慎ましく暮らしていましたわ。

私は孤児で…4歳からここの教会で
たくさんの兄弟達と共に神父様にお世話になっていました。

楽しかったですよ。すごく…
でも、時々わけもなく寂しくなった。
鐘を鳴らす仕事は、そんな私を想って神父様がくれた仕事なんです。

初めてこの塔にあがった時、
ここで風にあたるのが好きになった。
ここから街を眺めるのも大好きになった。


でも、街は砂漠から風に乗って運ばれてくる砂に徐々に侵食されていきました…。
初めはどうって事なかったけど、だんだん手が施せなくなって…

ほら、西に街が見えるでしょ?
資金援助もあって、ほとんどの住民はあそこに引っ越したんです。

そらからはもうあっという間!
この教会の塔を残して、低い家はすっかり砂に埋まってしまいました…。


…でもね、私の中ではここにまだ街が生きてるんです!
子ども達の笑い声や、活気溢れる市の声が…耳に残って離れない…。
それに、神父様との約束もあって…私はここにとどまっているんです。

私は、この街を愛していました。
仕方がなしにこの街を出た人達もきっとそう。
だから、この鐘の音が遠くまで響いて
この街の事を少しでも思い出してもらえたらな…と。そう、思うんです。


あ、ほら太陽が昇りますよ…!いつ見ても、やっぱりきれい…
昨晩は旅の話が色々聞けて本当に楽しかったです。
西の街に着いたなら、皆さんによろしくお伝えください。

16.砂

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