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17.小さな駅の小さなおはなし

それは、小さな駅の小さなおはなし。


「父さんはどうしていつもそこにいるの?
あったかいから?安全だから?それとも、お菓子をくれるお客がいるとか!」

末っ子のチビがそう聞いた。
小さな駅の小さなベンチ。その横がぼくの定位置だ。
おとなしくて、行儀がよくて、全然人を恐れない。
ここらじゃちょっと有名なねこ。それがぼく。

「あはは、残念。はずれだよ。ぼくはここである人を待っているんだ」

チビは小さく首をかしげながら「ある人?」と繰り返した。

「そう、ある人。"ある人"はぼくの恩人で、友人で、とても大切な人…


そう…それは、すごい雨の日だった。
ぼくがまだ、キミくらいの子猫だった頃の話だ。

ぼくの寝床に雨をしのげる屋根なんてなくて、体は雨でぐしゃぐしゃになった。
寒くて寒くてそこが人の多い危険なとこだと知ってたけど、ぼくは堪らず逃げ込んだんだ。

当時のぼくはそりゃみすぼらしい姿だったろうね。
気づいた時から野良猫で、体も小さかったからケンカも弱いし
まともなご飯にはなかなかありつけなかった。

人の目を避けて、このベンチの下に丸くなって…。
あまりの空腹にへたりこんでしまっていた。

そんなぼくを見つけて、迷わずタオルで包み込んでくれた人が"その人"だ。
彼はここの駅員さんだった。

最初は確かに怖かったよ。
でもそのときぼくは、初めてご飯がもおいしい事を知った。
撫でてもらう事が気持ちいいと知った。
たぶん初めて…愛という感情を知ったんだ。

それからぼくは雨の日のたび彼を訪ねた。
彼は温かくぼくを受け入れてくれて、色々な話を聞かせてくれたよ。
それが楽しくて、いつの間にか雨じゃない日もここに来てた。
お前の母さんとも、この駅で初めてあったんだよ。」


「へぇー」
そうチビは楽しそうにしっぽを揺らした。
「でも…」

ガタンゴトンと短い電車が入ってきて、ドアが開く。
お客がちらほら降りてきて、ぼくはその中に彼を探した。

「…でも?」
「でも、知らないうちに彼はいなくなってしまった。
他の駅員さんが言うには、彼はどこか遠い駅に異動になったんだって。

人の世界はぼくには想像できないぐらい広いみたい。
この線路はぼくには検討もつかないくらい遠くまで、続いてるらしいんだ。


でもさ、ねこの特権は、毎日が自由気ままって事だと思うんだ。
だからぼくはこうして気長に待つことにした。
それに、ぼくが彼ならそのうちふらっと遊びに来たいと思うだろうからね。」


「ふーん」
分かったような分からないような顔をして、チビはひとこと返事をした。



これは、小さな駅の小さなおはなし。

そのうち彼を待ち続けるねこの噂が広がって
彼とねこが再会を果たすのは、また別のおはなし。

17.駅で

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