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23.緑の瞳のラヂオ

いくつの頃からだろうか。
じぃちゃんの膝の上が恥ずかしくなったのは。



じぃちゃんっこだった僕は、よくその膝の上で色々な話を聞いたものだった。

宇宙の不思議、遠い国で聴いた歌、古典落語の滑稽噺…

じぃちゃんの話す言葉全てが分かった訳ではないけど
きっと背中から伝わる熱や鼓動、声の振動…
そういったものが好きだったんだ。


触れられなくなった今思う。いったいいつから離れてしまったのだろうかと。


じぃちゃんの席に一人。あの時のままの景色に思いを馳せ
ふと僕の目は古いラジオに吸い寄せられるように止った。

「あの箱は何?」
…確か僕はそう聞いたんだ。
いつものようにじぃちゃんは僕を膝の上にのせ語った。


テレビがまだ手の届かない存在だった頃、少年の相棒はラジオだった。

楽しい時、悲しい時、いつも少年の側には彼がいた。
初めての恋に破れた時、歌を歌って励ましてくれたのも彼だ。

"チューニングがあうとな、緑色の灯りがまん丸にともるんだ。
 まるで瞳のようだと僕はずっと思っていた。
 キラキラ光って、とても綺麗なんだよ"

そう話す彼の姿は、まるで同じ歳くらいの少年のようだったな。
僕たち二人の間には、何倍もの歳の差があったのに…だ。


そんな事今まで忘れていた。このラジオも何年もの間眠ったままなのだろうか…。
木製で滑らかな手触りのそれはどこか優しくて温かくて…
まるでじぃちゃんみたいだ。

カチッとスイッチを入れる。
流れてきた音はノイズ混じりでとても聞きやすいとは言えないけど…
それがひどく懐かしく、愛おしいと思った。


緑色の灯りは今でもキラキラ輝いて、まるで瞳のようだった。

23.ラヂオ

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