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36.日記旅。とある帽子屋で

そう、それであなたは亡くなったお祖母様の日記を辿って旅を…
よくこのしがない帽子屋を見つけてくださいましたね。感謝します。
どうぞかけてお待ちください。すぐにお調べしましょう。




…あぁ、この帽子の方でしたか。
お嬢さん、ありましたよ。

えぇ、よく覚えています。
ふわっとした髪と柔らかな笑顔がとても可愛らしい女性でしたから。
これは秘密ですが…当時私は彼女に憧れていたのです。

なので彼女からご依頼をいただいた時は
それは胸が高鳴りましたとも。
精一杯の技術をもってして、出来上がったものは自身最高のものでした。

それが背中を押したのか、最後の機会と思ったのか…
帽子をお渡しするその日、私は彼女へ気持ちを伝えようと決めたのです。


でも言葉を口にしようとしたその時、
帽子を受け取った彼女の瞳が、表情が…愛しげに綻んでいるのに気がつきました。
大切な方を心に浮かべていたのでしょう。

私は結局自分の想いを伝えるのをやめました。
彼女の恋を彩るものに、その帽子がなれるのならば
私はそれで幸せだと思った……。

あなたから見たら、それはきっとただの帽子でしょう。
しかし私にとっては秘密の恋文なのです。
私にしか分からない形のね。


あなたにも1つや2つあるでしょう。
他人からしたら何でもないようなものでも、
自分にとっては自身の過去を語る大切なピースとなっているものが…

そういうものを散りばめていく事を、
あるいは人生と呼ぶのかもしれませんね。


私にも懐かしい思い出を届けてくれてありがとう。
きっと素敵な旅になりますよ。
いつか旅が終わりを迎えたら、今度はあなたの話をここでお聞かせください。

36.帽子屋

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