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41.渡り川船頭と文無し客人

やあ、君は…いつもそこで腰掛けてあちら側を見ているね。
いったいいつから、そこに腰掛けているんだい?



いやね、私が行って戻ってきて、また行って戻ってきても
君は変わらずにいるもんだから気になっちまってね。

ここまで来てるっていうのに、渡し賃はまだもらっていないのかい?
あぁ、なるほどね。複雑に絡まった管が君をつなぎとめているっていうわけか。
近頃はいくらかそういったのを多くみかけるようになった気がするなぁ。
ま、時代だろうね。

君はいったいどういう気持ちで、旅の人々を見送るのだろう?
悲しみ哀れむ気持ちかい?それとも、羨む気持ちであったりもするのかい?


私は長いことここで船頭をしている。
そりゃ君が知ってる時間よりも、ずっとずっと長くさ。
そうすると、船に乗せる色んな客から色んな話を聞くもんだ。

「ありがたい人生だった」ってにこやかに語る人や、中には
「風呂場で転んですっぽんぽんでさぁ」なんて笑い話みたいに語る人もいる。
そういう時は私もいくらか気も楽に話を聞けるってもんだよ。

だけどね
「やり残した事が山ほどあった」「生きてる事が苦しかった」
他にも、「本当は生んでほしかった」
…なんて言う客もいるからね。なかなかに大変な仕事さ。


幸せに生きるとは何だろうね。
幸せに死ぬとは、何だろうね。

…君は、どう思う?
…"分からない”か。
ま、誰だって分からないものなのかもしれないね。


さて、そろそろ仕事に戻らなきゃならないな。
いつまでも話してて客を待たせたら悪いから。
また、近いうちに会おう。今度はきっと、客と船頭としてさ。

41.管

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