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46.大紅葉と着物の少女

おーい…おーい…

あぁ、良かった。気がついた。
なかなか目覚まさないから心配したちゃった。
大丈夫?あの崖から足滑らしたんでしょ?



道、分からないんだったら、私案内したげる。
この村の宿屋の方でいいのかな?

ふふふ…なんだかおかしい。
うぅん、ここの村にはね赤い着物の鬼女の伝承話があるんよ。
ここの村の人は私の赤い着物を見ると、鬼女みたいだって嫌な顔をするから。
あ、でも平気だよ。私、この村の人好きだもの。
古くからの暮らしや、この山の事を大事にしてくれてる。
…この地を離れても、変わらないでいてほしいなぁって思ってるんだ。

ね、ずっと気になってたんだけど、それ、カメラでしょ?
わぁ~、私、そんな立派なカメラ見たの初めて。
私、写真って好きなんよ。
遠くの人や、私の知らない未来を生きる人にも、
"今、この瞬間"を切り取って伝える事ができる…。
その存在や出来事を永遠に近い形にして残せる。
記憶だけじゃ不確かだから、そうやって時間を切り取る機械を
人は作ったんかね。

そうだ。この先に、この山の御神木になってる大紅葉があるんよ。
きっといい写真が撮れると思う。寄って行こう。

どう…?すごいでしょう。
あの先の道を行けば、もう上の道に戻れるよ。

ちょうど夕焼けと紅葉が綺麗。良かった。本当にいい一瞬を、残してもらえて。
私の先祖の、悲しいけれど、忘れたくない思い出の木…

…え?私も入るの?
…ありがとう。この着物を、そんな風に言ってくれた人は初めて。
でも無理よ。私はきっと、写らないもの。
鬼の血が強いから。(風が言葉を掻き消す。落ち葉を巻き上げ写真家の視界を奪う)


ねぇ、いつか伝えて。ここの景色、ここの暮らし。大紅葉の事。
ちゃんとここに存在していた事を、忘れないでいてもらうために…

さようなら。出会えて、嬉しかった。

46.派手

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