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55.ケセラセラと笑う月

立ち入り禁止看板。
あと一歩の距離を
侵すのが、侵されるのが怖くて


いくら心で叫んでも
手を伸ばしても
声にならなくて
動けなくて

得意の笑顔を貼りつけて
ケセラセラと笑うのです。


誰にでも好かれたがりの臆病者だから。
本気で好かれる勇気はないくせに。


そうやって、自分で自分をひとりにして
行き場のない感情の波に、溺れた。


あぁ、あの夜空に静かに浮かぶまあるい月は
いつも同じ面だけをこちらに向けているという。

だからだろうか。
綺麗なのに、もの悲しく感じるのは。


立ち入り禁止看板。
わたしの中のそれはもう、錆びついて
そう容易には動かせないと思う。


だけど、だから
笑っていよう。苦笑いでもしょうがない。


「ごめんね。人付き合い、苦手で」


ケセラセラ。ケセラセラ。
魔法の呪文。
私は 私なんだからしょうがない。

人より歩くのが遅くても すぐには心が開けなくても
毎晩、夜になればのぼろう。
あの月みたいに。


「今夜は月が 綺麗ですね」

55.立ち入り禁止

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