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57.乙女的潔癖症

おはなししましょう。聞いてくださる?

わたしの中には一人の少女が住んでいる。
いつまでも年をとらない、空想好きの少女だ。



夜空で染めた紺色のワンピースを身につけて
絵を描いたり、本を読んだり、歌をうたったりして過ごしてる。

きらきら光るガラス玉が大好きで
レトロなカメラで写真を撮るのが好きで
青い空、白い雲、木々の緑、花、風…  
みんなみんな、わたしの心を踊らせてくれるもの。

よく晴れた日に深呼吸したら、
それだけでスキップしたくなるくらいわくわくした気持ちになれる。


わたしの中には一人の少女が住んでいる。
いつまでも年をとらない、空想好きの少女だ。

けれど現実世界では、心を置いてけぼりにして、年だけ積み重なっていく。
満員電車はもう慣れたし、作り笑いだっておてのもの。
そりゃ心から笑うことだってたまにはある。友達もいるし、毎日それなりには幸せ。

けれど時々、
「わたしはきっと、一生この世界には馴染めない」と
なんだかひどく虚しくなる。

嫌でも目に入る下品な広告
喉の奥まで見えるほど大口開けて電車で眠るいい大人
甲高い声のおしゃべり男と、猫なで声の女のカップル
… 馬鹿みたい。

けど きっと、そんな風に軽蔑している私の心が
何よりも 誰よりも この世で一番 きたならしい。


わたしの心の中には一人の少女が住んでいる。
いつまでも年をとらない、空想好きの少女だ。

彼女を何かで塗りつぶせたら、もっと楽に生きれるだろか。
いつまでもこんな風だから、恋のひとつもできないのだろか。
大人になるのは難しい。子どもでいるのも生きずらい。


こういうの「乙女的潔癖症」って呼ぶんですって。

57.一人

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