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58.青色水槽。。境町

懐かしいにおいがする。

深く息を吸い込んで その透き通った青色で肺を満たした。
はきだす息は泡となって ぽこぽこと、空高くのぼっていく。


あぁ、そうだ。
まだ小さかった頃、家族で行った 真夜中の水族館は
こんな感じだったかもしれない。
銀色の腹を光らせて、誰もいない静かな町を魚がゆっくり泳いでいく。

今ならちょっと地面を蹴れば
あの小さく光るお星さままで手が届くかもしれないなぁ。
なんて、そんなことをぼんやり考えた。


あの水族館は、確かもう、今はない。


ふと悲しい気持ちになって、でも懐かしくて
なんだか無性に泣きたくなった。


ねぇ、おばあちゃん。
天国のおばあちゃん。

わたしの体は、まだ水に浮かない。
死んじゃった金魚みたいに、まだ浮かんでいかない。


大事な人、大事なもの
色々なものを空へ見送って、懐かしさだけが取り残された
この水槽の底みたいな町に

時々は、来てもいいよね。



ぽこぽこ ぶくぶく 
涙も 言葉も 全部溶ける。

今は何もいらない。
ただもう少しだけ、わたしがわたしを生きるために
この青色に沈んだ懐かしい町に いたいの。

58.水槽

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