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60.時間電車。八月灯篭

どうして、どうして涙、止まらないんだろう。

わたし、大切な何かを忘れているんだ。
どうして あの子は てぶくろをしてたのかな。
マフラーに顔をうずめて、必死に隠そうとしたのは 何だったのかな。


約束したのに。また夏に会おうって。
それなのに
どうしてわたしだけが電車に乗ってて
あの子が一人 駅で取り残されてるのかな。

寒そうに震える手を 引けたなら… よかったのに。


あ… あれ、 向こうから流れてくる あかり…
たくさん。 星じゃない、ぜんぶ、灯篭だ。

…っ
お願い、止めて!わたし ここで降りるから!お願い!


あの子を引き上げるのが 許されないのなら
せめて この胸で燃える火を 一緒に流したい。

どうして… どうして わたしだけが…… 


「どうしてわたしだけが、生きてるのだろう」


8月のあの日を わたしはもう、忘れない。
蝉がないている。うるさすぎるくらい、ないている。
それほどに静かな夏。


8月のあの日を わたしはもう、忘れない。
絶対に。絶対に・・・。

60.マフラーとてぶくろ

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