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69.小説家の戯言

おや、かもめくん
そんなところで何をじっと見つめているんだい?
そんなに見つめたって、エサなんてやりゃあしないよ。
かといって、どっかの誰かさんみたいに撃ち落としもしないがね。


それとも何かい
わたしを嘲笑いにでも来たのかい?
まさか、死神じゃあなかろうね。

ははは… 本当に逃げないや。


「そのかもめは
じっとわたしのことを見つめてくるのだった。
まるで何かを告げに来たかのように
その黒々と光る両の瞳に
しっかりとわたしをうつしこんで
少しも動こうとしない。」


…変わり者の君のおかげで作品がひとつ書けそうだよ。


何をわたしはひとり言を言ってるんだか。
阿呆らしい。

…「そう、小説家は脳内で毒づいた。」


… ねぇ、かもめくん
きみの目にわたしはどう映るんだろう?

まわりの景色も、自分自身の感情も
客観的で体のいい、"小説"のためのものになってしまう。

怒りに耐え、声をあげて泣いた時も
恋愛と呼ばれるものに身を投じている時も
死に直面した時でさえ
ふと冷静なわたしが現れて、その時のわたしをまるで遠くから眺めるかのように端的な言葉で切り取っていく。

冷めてるんだろうね。
本当の意味で感情というものに溺れたことがない。感情的なフリばかりが上達し、そんな自分に辟易するんだよ。誰かといるとね。

「…そんなふうに、小説家は
名もないかもめに話しかけてしまうほどには
孤独であった。しかし、孤独という感情に酔っているだけなのかもしれない、とも考えていた。その感情を描くために、自ら選んで孤独なのだ。……しかし、そう考えれば考えるほど、自身が惨めな人間に思えてならないのであった。」




これじゃあ、まるでこわれものじゃないか。


そうさ、何を今更……


「撃ち落とされたかもめは
撃ち落とされてなお、狂ったような抑揚で言った。
必要なのは地位でも名声でもない、忍耐だ、と」

……さようなら、かもめくん
悪いけどカーテンを閉めることにするよ。
きみが見てると原稿に集中できないからね。

(カーテンを閉める音)


…………
そういえばあの話の結末は、
(小説家がピストル自殺をするんだっけ……)


…………ははは


………

「バァン」

 

69.こわれもの

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