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71.金木犀の香る日、引っ越し
あちゃ、ガムテープなくなっちゃった。
しょうがない、一時休戦。休憩といたしましょ。コーヒーでも入れようか。
やっぱり湯沸しポットをしまうのは最後ね。
ふぅ… おいしい。
…
"きみとこうして当たり前に隣にいられる自分を しみじみと不思議に思う"
箱に入れるたびに思うの。
あ、去年の冬、これで一緒につついた鍋、おいしかったなぁ、とか、
誕生日にもらった花、この花瓶に生けたなぁ、とか
はじめは何の変哲もなかったものなのに、
いつの間にかたくさんの思い出に上塗りされてた。
それを今、改めて実感してるの。
ねぇ、好きよ。あなたが好き。
金木犀の香る季節が来るたびに、今日の日のことを思い出せたらいいなって思った。
だんだんきみとこうして隣にいることが、当たり前みたいになって
きみは仕事に、わたしも日常に追われて、お互いにイライラしたり、
わたしはきみをぞんざいに扱ったりしてしまう日が来るかもしれない。
でもちゃんと仲直りしようね。
ちゃんと隣で、一緒に歳をとろう。
これからもっとたくさんのものが、一緒に過ごした記憶で塗られて
そういったものに気がつかないうちにどんどん囲まれて、
でも確実にある日どちらかが先にいなくなってしまう時が来て
そのことを考えると、なんだか、今から怖くなっちゃう。
馬鹿だね、わたしって。
ねぇ、わたしを好きになってくれて、本当にありがとう。
71.ガムテープ
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